一緒に耐えよう、立ち直ろう!東北! がんばろう!日本!

2014年3月28日金曜日

2本スキーってどうなの?(「ソチ」番外編)....

世の中では、桜の開花がどうだとか、新年度がどうだとか、

新しい季節の到来にそわそわしてますね(^^

σ(^^;は「年度魔Ⅱ」という悪魔たちにおしりを蹴飛ばされて慌てふためいています。

まあ、いつもの邪魔くさいルーチンに追われているだけですけどね♪


そんな季節柄、ほとんどの人にとって、

冬はすでに「過去」の話となっていることでしょう。

しかし!σ(^^;の心ははまだソチにいます♪


前回までに、障害者アルペンジャパンSittingチームのレースについて書いてきましたが、

どうしても、「整理」しておきたい事がありますので、「番外編」を書いておこうと思います。

そろそろ食傷気味だとおっしゃる方は、スルーしてください(^^;


何が気になるのかといえば、フランス製のチェアスキーです。

Tessierから「Scarver」というモデル名で発売されています。

TABERLET Yohann選手(FRA)を始め、何名かの選手が使用しているヤツ。


そう、2本のスキーが装着されているアレです。






















これ、本当に面白そう!

いま、「σ(^^が乗ってみたいチェアスキーランキング」で、ぶっちぎりのトップを爆走中です♪


2本のスキー板というのはとても理にかなっていまして、

単純に、滑走面の「摩擦係数」は半分、「エッジグリップ」は倍!

1本スキー(以下、「モノスキー」)のフレームと比べて、

その優位性は計り知れないものがあります。

特に、高速系の緩斜面区間では無類のスピードを誇るでしょう。


しかし、「ソチ」では目立った成績を上げることは出来ませんでした。

その原因は、その操作性の悪さにあると思うんです。


「Scarver」はフレームのバンクに連動して、

2本のスキー板をリンクで「機械的」にバンクさせています。















間近で見た訳ではないのですが、簡単に書くとこのようになっています。















とても面白い機構だと思うのですが、

左右のスキー板は「機械的」に、フレームとスキーを1:1でバンクさせているだけでしょう。


健常者のように、「内足」と「外足」の絶妙な使い分けをしている訳でもなければ、

内外のスキー板のターン弧、その大きさまでを考慮させているとも思えません。

しかも、ターン中の力のかかり方を考えると、その「操作性」の限界がよくわかります。


雪面と軸と荷重方向を整理すると、このようになっていると思われます。















ちなみに、モノスキーであればこのようになります。















ぱっと見は、このフランス製の方が安定感があるように思えます。

三角形の底辺でしっかりとバランスが取れそうですものね。


でも、モノスキーのように深いバンク角を取ろうとするとどうでしょう?

このように、「内足」に乗ってしまうことにならないでしょうかねぇ。















内足に乗ってしまう恐怖は、

健常者や2本スキーのStanding(立位)選手の方にはよくおわかりかと(^^;


スキーにおけるターンの妙は、

そのスピードとか、ターン弧の「キレ」とかではなく、

重心移動の「自由度」にあると考えています。


自由自在に重心移動が出来るということは、

どのような斜面の滑走でも、

どのような深さのターンでも、

どのようなリズムの切り返しでも、

「自由自在」に出来るものだと思うんです。


でも「Scarver」は、バンク角が限度を超えることで外足の荷重が抜けてしまい、

このように、突然に重心バランスが変わってしまう。















リンクによって板の傾きを制御しているのですが、

健常スキーのように内外の足の位置を変えられない、

そういうこところから来る構造的な事が要因です。


それは、チェアスキーに依存するSittingクラスにおいては「致命的」だと思うんですよね。

事実、この「ソチ」期間中のレースでも、「内足」に乗った事によるクラッシュがありましたし、

そういったフレーム由来のミスリカバリーは相当に難しそうに見えました。


こういった問題が発生する中で、

構造上、フレームそのもののバンク角は浅くせざるを得ません。

2本スキーの強烈なグリップによって、

浅いバンク角でもターンすることは可能でしょうけども、

それも限度があります。


「ある角度」以上は倒せないということは、

「限界」は突然にやってくるということでもあります。

障害の重い、特にLW10クラスの選手たちにとっては、とても使いづらいものでしょうね。


こうやって考えてみると、モノスキーと比べて、

①重心移動の自由度
②旋回性能
③雪面追従性

この3点について優位性がなければ、評価されないのではないかな?


①は先ほども書いた通り。

モノスキーには、「最大バンク角=シートが雪面に接触する位置」という、

「物理的」な限界によって制限がありますが、

「Scarver」の場合だと、「構造的」な限界が先に来てしまいます。

これは、いくら何でも切ない(^^;


②の旋回性能でいえば、よくわかるのがSlalom(回転:SL)レースでした。

「足」を付け替えて、1本スキーでスタートしてますよね?














←SL用「足」




つまり、SLのような細かく鋭いターンが求められる局面では、

「使えない」ということを証明しているようなものです。


③はサスセッティングにも大きく関係しますが、ギャップを食ってしまったり、

無理な切り返しをしてしまったりして雪面から板が浮いてしまう状態や、

高速系のジャンプの処理などのことについてです。


雪面とのコンタクトによって、リンクなどでの「機械的」な制御をしているということは、

雪面から浮いてしまってたら、板のバンク角は変わってしまいます。

空中で「プラプラ」するわけですから。


選手が頑張って、リカバリーとして重心位置を補正したとしても、

板のバンク角がいつの間にか変わってしまったら、

エッジが食いついた瞬間に思わぬ方向へ飛んでいってしまうことがありそうです。


「板を浮かせない」のがスキーの「キモ」だとしても、

「浮いてしまう」のも「宿命」です。

このリカバリーに影響のある構造だと、やっぱり面白くない。


以上、この3点について、

わずかでもモノスキーを上回る性能を出して、

なおかつ、DownHill(滑降:DH)のような大きなハイスピードターンから、

SLのキュンキュンと鋭く回るターンまでを、

「そのまま」の状態で使いこなせなければ、「主流」にはならない。

そんな気がしています(^^;


もちろん、まだまだ改良の余地があるはずなので、手の入れようによっては、

「トリノモデル」が世界を席巻したような「革命」を起こせる可能性はあります。


てことで結論!

「Scarver」は、今のままではレースの使用に耐えない!

だが、驚異の可能性と、改良の余地は大いにありあり!

見て触って乗って、σ(^^の手で「改良」を加えてみたい!

だから、とても面白そうなマシン♪だと思うんです(^^


「改良」が上手くいったとして、

その「足」の機構をトリノモデルに移植したらどうなるのかな?

「えげつない」マシンが出来そうだな....


実は簡単な工夫で、問題をクリアする方法を思いついています。

あとは実行あるのみ。


「Scarver」、ちょいと買ってみようかな?と思って、価格表を取り寄せてみました。
                          (以下は、すべて付加価値税5.5%込)

フレームにシート、オーリンズ、アウトリガー(手に持つヤツ)、

それにレッグカバーのセットで6,004ユーロ。

1ユーロ140円ぐらいだから、約84万円!!!!


アウトリガーとレッグカバーを無しにしても、4,736ユーロ、約66万円!!!!


オーリンズをTTXにすると、プラス736ユーロ、約10万円!

シートをケブラーカーボン製にすると、プラス848ユーロ、約12万円!


んー....見なかったことにしよう(^^;


さあ、長い間お付き合い頂きましたが、

「山本新之介のソチパラリンピックをわかったような技術解説」はこれにて終了です!

読み返してみると、勢いに任せてダラダラと書いただけのような気もしますが、

書きたいことを書ききった充実感に満足しています。

読まされた方にとっては、苦痛だったかも知れませんけどね(^^;


選手たちはもちろんですが、σ(^^にとっての「4年間」も終わりました。

また次の4年間が始まる訳ですが、「ケセラセラ」をモットーに「ぐだぐだ」と生きていきます♪

とりあえずは、ようやく訪れる「ソチロス」と戦うことにしますか(^^


ではまた、ごきげんよう!

2014年3月26日水曜日

「4年間」の始まり:20140316SochiGSWomen....

ソチパラリンピックもとうとう最終日。

Day9は女子GiantSlalom(大回転:GS)レースで、アルペン競技が幕を閉じます。


正直言いまして、最後の最後でメダルもう一個!

なんてことを期待しながら中継を見ていました(^^


なんてったって、ワールドカップのGS優勝者が、

ジャパンチームからエントリーしているんですよ?

あわよくば!とワクワクしても罰は当たりますまいて♪


その選手の名は、村岡桃佳選手!

彼女は、メデイアのインタビューを受けて、

「転けても構わない。精一杯の走りをする」と力強いコメントをしていました。


この大舞台で、イチバチのギャンブルを仕掛けられるのなら、

チャンスは向こうから転がってきます。


「それいけぇ!」

とTVの前で叫びながらそのスタートを見送っていました(^^


まあ、結果はご存じの通りだったのですが、

村岡選手がどれほど「弾けた」ランを行ったか、

おさらいしてみたいと思います♪


映像とリザルトをご覧になりながらお付き合いください(^^

  ↓ 1本目



  ↓ 2本目



リザルトはこちら♪


女子Sitting(チェアスキー)クラスの現状は、「女王」が君臨している訳で、

「セカンド争い」を繰り広げている選手たちは、やや水をあけられてしまっています。

その「団子状態」の中へ村岡選手は名乗りを上げました。

海外勢の間では、その存在感は日に日に高まっているはずです。


さて、Sittingクラス2番スタートの村岡選手。

スタートバーに対した瞬間はきっと、

早くスタートさせろと思っていたことでしょう(^^


しかし、スタートタイミングが鳴り響く中、

彼女はあえて、一呼吸を置いてからコースに飛び込みました。

落ち着いてるな....

とても「ルーキー」とは思えないスタートでした。


緩斜面でリズムを作り、最初の急斜面。

決して簡単ではない斜面だということは、

昨日の男子のレースで証明されています。


その急斜面に入る時、若干ですが、

「守りなから」入ったのは仕方がないことでしょう。

でも、その急斜面の途中、少しの「後悔」を彼女が感じたように見えました。


「しまった!ここまで慎重にならなくても良かった!!」


そこから、スキー操作が一変します。

横に横にとスピードコントロールをしていたスキーが、

下へ下へと向けられていきました。


残念ながら、加速し始めるタイミングが遅かったため、

緩斜面でもスピードの乗りが良くない。

少しもどかしそうに、彼女は緩斜面を駆け抜けます。


次の急斜面の入り口。

彼女の生真面目さと、キャリアの少なさから来るライン取りが垣間見えました。


インスペクション(コース下見)で決めたラインを、

ほぼその通りにトレースする村岡選手。

ですが、その進入スピードでは、やや大回り。


その局面でも、ラインの修正を行うまでには至らず、

自身が決めたとおりの進入ラインで急斜面へ飛び込んでいくのです。

ああ、真面目な選手なんだなぁ(^^と素直に受け取りました。


「真面目」というのは、成長過程においては最も重要な要素です。


いろいろと吸収していく中では、

いろいろな指導者や先輩たちから、

いろいろなことを教えてもらいます。


それを「真面目」に聞いて、考えて、試して、

そして身につけていかなければなりません。

「真面目」な村岡選手は「大物」になるだろうなと感じた瞬間でした(^^


「真面目」に教えを受け、

取り組む事が出来ない選手たちが、

「消えていった」のを何度も目にしていますから、

こういった些細な瞬間にも、その将来性を感じられたりします。


「真面目」に取り組まずに消えていった選手が誰かって?

その最たる例は、σ(^^;です。ンナコトハドウデモイイナ....


ただ、1本目の村岡選手の滑りについてσ(^^が勝手に思ったのは、

「まだ、弾けてないな」ということ。

「転けてもいいから」という「イチバチ」の滑りではなかったなぁと。


そして、結果として「女王」から6.96秒差で終わりました。

でもこの際は、「女王との差」はどうでもいいのです。

いきなり、そんな次元で勝負が出来ないことは誰もがわかっていたはずですから。


σ(^^が注目していたのは、「3位」との差です。

その差は3.91秒。

「もしかしたら?」と期待してもいいタイム差です(^^


「イチバチ」が炸裂すれば!

そして「流れ」を引き寄せられれば!


2本目は、1本目と別人か?と目をこすりました(^^

明らかに「攻撃的」な滑りに変わっているのです。


いくつかのミスがあったとしても、それはリスキーなターン初期でのこと。

意識は「落下」をし続けていました。

その「軽量」さ故の、緩斜面のスピードの乗りの悪さも、影をひそめます。


フィニッシュを切った時、リーダーズボードのトップには彼女の名前が輝きました。


その後にスタートする選手が次々と彼女の上に躍り出ます。

が、ひとりは大きくタイムロスをし、ひとりはDidNotFinished(途中棄権:DNF)と、

決して順当ではありませんでした。


彼女自身の好タイムもあり、結果は5位。

銅メダルまでのタイム差は2.39まで詰めることが出来ました。


ね?「もしかしたら」という期待は間違いではなかったでしょ?(^^

彼女に言葉を掛ける機会があるとしたら、

「お疲れ様!よく頑張ったね!」ではなく、

「惜しかった!今度こそは!」ではないかと思うのです(^^


パラ初参戦の選手のうち、大抵の場合は、

「雰囲気に呑まれた」というコメントが残されます。

そして、その悔しさをバネに成長していくものです。


その間、実に4年間。

とても長い間、トレーニングに耐え、成長し、再び「大舞台」に挑戦していきます。


しかし村岡選手は、「呑まれる」ことのプレッシャーや恐怖の「壁」をあっさりと乗り越え、

ほとんどの選手が「やり直し」のために費やす「4年間」を、

いきなりスキップすることに成功したのです。


これで、村岡選手の武器がひとつ増えました。

「大舞台で『壁』を乗り越えた」というのは、

彼女にとってこれからの4年間を有利に進めるための貴重な糧になるはずです。

まあ、そこに胡座をかいちゃダメなんですけどね(^^;


なんだか、村岡選手の「よいしょ記事」みたいになってしまいましたが、

あまりにも嬉しくてこんな書き方をしてしまいました♪


でも、一方の田中選手だって、学ぶことが多かったに違いないのです。

彼女の最大の武器は、いい意味で「懲りない」ことです(^^

「いい意味」で、ですよ♪


この大会は「思うようにいかなかった」という結果しか残らなかったと思いますが、

この程度で「メゲる」彼女ではありません。

きっと、さらに自分にムチを打って、「次の4年間」を駆け抜けることでしょう(^^


女子Sittingチームのこれからも、どうぞご期待ください♪

そして、彼女らに続くチェアスキーヤーが増えることを祈っています!


さあ、ソチパラリンピックのアルペン競技を全て見てきました。

感動の閉会式も堪能出来ました(^^


本当に幸せな時間を頂けたと思っています。


選手のみんな、スタッフや関係者の方々、本当にありがとうございました!(^^


そして、全戦を中継して頂いたスカパー!さんにも感謝感謝です!

正直言いまして、障害者アルペンの世界戦をしっかり見られたのは、

これが初めてなんですσ(^^


いままで、見たくても見られなかったものが、見られた。

こんなに嬉しかったことは、これまでにありませんでした。

あわせてお礼申し上げなければ(^^


さて、これで「わかったような技術解説」はお終い!と言い切るにはまだもう少し。

σ(^^の中で、まだ「くすぶっている」事があります。


ということで、「番外編」も書きたいなと。

もう少しお付き合いくださいね♪

次回番外編「2本スキーってどうなの?」です。

2014年3月25日火曜日

本命と言われることの厳しさ:20140315SochiGSMen....

ソチパラリンピックDay8、

この日の中継は心穏やかに見ることが出来ませんでした(^^;


「のどから手が出るほど金メダルが欲しい」と公言していた森井選手。

狩野選手や鈴木選手の金メダルを心から祝福しながらも、

自らの栄冠は手に出来ない日々が続いていました。

彼の思いの強さを知っているからこそ、σ(^^;も気が気でならなかったのです。


この日は男子競技の最終日、開催種目はGiantSlalom(大回転:GS)。

間違いなく、大本命は森井選手だと思っていました。


ですが、結果はご存じの通り。

決して、彼は口にしなかったでしょうが、

その無念は計り知れないものだったことでしょう。


報道で、彼が涙する映像が流れましたが、

それはコメントどおりの嬉し涙だけではなかったんだろうと想像しています。

今度会えた時、どんな言葉を掛けるのがふさわしいかわかりませんが、

ひと言、「お疲れ様でした」はしっかりと伝えたいと思っています。


ただ、いろいろと考えてしまいます。

パーツのテストだ何だと「雑音」を入れて、トレーニングの邪魔してしまったのかな?

だから、予定していた調整が遅れに遅れ、こんな結果になってしまったのでは?

大舞台に関わるという「因果」の怖さを、少なからず感じているところです。


ただ、結果は結果。

森井選手がそれを受け入れている以上、

σ(^^;も後ろ向きではいけないと思います。

精一杯頑張って生きていかないと♪です。


では、GSの模様を改めて振り返りたいと思います。


などと簡単に書きましたが、

レースの映像を何度見直したかわかりません。

そのぐらいに、「敗因」が解らなかったのです。


↓1本目



↓2本目




「こんなはずでは」という固定観念を捨てて、

何度も何度も見直して、楽観的な想像を捨てて....


それでも、これから書くことが正解なのか全く自信がありません。

ですので、今回は「いつも以上の戯言」とご理解の上でお読みください(^^;


まずは、当日の状況です。

コースプロファイルは、スタート標高1,303m、フィニッシュ標高960m、標高差343m。

1本目の天候は「Fog(霧)」、気温がスタート地点で-1.0℃、フィニッシュ地点は0.8℃。
(映像では、霧は晴れていたようですが....)

雪面は「Packed」ですから、前夜の冷え込みを利用して、

雪面硬化剤を徹底的に利用して固く仕上げていたのでしょう。


コースセッターはオランダチームのコーチ。

ゲート数49、ターン数45。

対標高差ターン数は13.1%と、「標準」よりのややスピードセット。


エントリーしていた選手は35カ国112名。

スタートしなかった選手を入れて数えても、

Sitting(チェアスキー)クラスまでに66名の選手がコースに入りました。


これだけ滑ればものすごく荒れた雪面になりますが、それも「いつも」と変わらない状況。

データだけ見ていると、ガスで遮られた視界と暖かい気温以外は、

そんなに厳しい状況でもなさそうです。


ただ、映像から見て取れるコースセットには、とてもイヤらしいトラップがありました。

よく解るのが、ジャパンSittingチーム1番機狩野選手のラン。


滑走タイム15秒頃の急斜面です。

いいスピードで急斜面に飛び込み、

何もかもをねじ伏せるようにターンを行います。


そして、緩斜面へと続く変化。

緩斜面へはハイスピードを維持するのがアルペンのセオリー。

狩野選手も限界ギリギリの速度を保って緩斜面へアプローチしていきました。


しかし、その入り口に立っているゲートは、

ターン弧を小さくさせるセットになっていたのです。


そのままのスピードで進入する狩野選手。

頑張ってクリアしようとしたのですが、

エッジグリップの破綻が先に来てしまいました。


激しい転倒にはならなかったものの、コース内でストップしてしまいます。

このセットは嫌らしいなぁと、TVの前で眉をひそめるσ(^^;。


次の瞬間、「チーム力」というものを垣間見ました。


狩野選手は懸命なリカバリーの末、

Disqualified(旗門不通過:DSQ)は避けることが出来ました。


そのまま再スタートをして、2本目に進むことも出来たのですが、

狩野選手はコース脇にいるコーチに「報告」するために、

DidNotFinished(途中棄権:DNF)を選択。


その結果、速やかにスタートハウスへ「情報」がもたらされました。


その後のジャパンSittingチームのスタート順は、

その3人あとに74番鈴木猛史選手がいて、

以降、77番森井大輝選手、80番夏目堅司選手、93番谷口彰選手。

この間隔なら、「生きた」情報が間に合ったはずで、

咄嗟に情報を上げなければと判断した狩野選手。

素晴らしい「チーム力」だと感嘆しました(^^


さて、その「情報」を受け、続く選手たちは「そのトラップ」をどのようにクリアしたのか?

鈴木選手のその区間は映像にありませんでしたのでわかりませんが、

他の3選手は、とても「美しく」駆け抜けられたのではないかと(^^


しかし結局は、各選手は大きなビハインドを背負って1本目を終えることになった訳ですが、

映像で確認出来る限り、相当に難しい雪面だったというのが、

その原因のひとつではなかったかと考えています。


まず、当時の雪面状況は、おそらくこんな感じではなかったかなぁ....


期間中、とても暖かく、雪の結晶は溶けていたことでしょう。

それに加えて、雨の日もありました。

そんなこんなで雪は「ザラメ」どころか「ビーズ」のようになっていたはず。


しかも、GSのコースではこれまでにレースバーンとして使用されていません。

しっかりと「保存」されたコースという訳です。

その上、徹底的にスノーセメントで固められ、さらにGS前夜の冷え込みが加わり、

例えるなら「雷おこし」のような雪面であったと考えます。



この「雷おこし」、

ターンを始めようと倒し込みを始めるその瞬間が、

最も難易度が高くなります。


「ふつー」の雪であれば結晶が細かく、

スキーのトップエッジを「引っかけ」れば、エッジは雪面に食い込んでいくので、

ターンインは容易です。


ところが、「雷おこし」の表面は結晶が丸く、とても滑りやすいのです。

エッジを立ててグリップさせたくても、

「ころころころ....」とエッジは雪面を「撫でて」滑っていってしまいます。

それではエッジは雪面に食い込みません。

エッジが食い込まなければ「カービングターン」は出来ません。


こう考えると、エッジを掛け始める「きっかけ」が極めて少ない雪面で、

とても厳しい戦いを強いられたというのが実際のところでしょう。

ジャパンチームだけではなく、ほぼ全ての選手が、

切り返しからリスキーなターンインの局面で、とても不安定な挙動をしていたのが見られます。


そしてもうひとつ。

切り返しの際には、食い込んだエッジが雪面から「抜けない」シーンが多く見られました。

この「雷おこし」は表面は固く締まっていますが、

カービングターンが始まると、どんどん深くエッジが食い込んでいくようです。


思ったより深く雪面に食い込んだということは、エッジが抜けにくく感じられるはずです。

エッジが抜けないということは、切り返しが遅れる。

切り返しが遅れるとターンインも遅れ、エッジングはより難しくなります。


こういったことが原因となって、

正確で強大なエッジグリップを武器とするジャパンSittingチームにとって、

その優位性を封印された状態で戦わざるを得なかったというのがσ(^^の見立てです。


さらに、高いターンスピードを維持出来ずに飛び込む長い緩斜面区間が、

体重が比較的軽めの選手たちにとっては不利な要素を拡大させることとなりました。


ちなみに、スキーの世界でよく言われる「カービングターン」ですが、

「Curving Turn(曲がるターン)」ではなく、

「Carving Turn(刻むターン)」ですのでお間違えのないように(^^


閑話休題。


で、2本目の戦いを迎える訳ですが、天候は回復していきます。

霧が晴れ、「PartlyCloudy(晴れ時々曇り)」となり、

気温はスタート地点1.0℃、フィニッシュ地点4.4℃まで上がってしまいました。


コースセッターはスペインチームのコーチ。

ゲート数46、ターン数41。

対標高差ターン数を11.9%にまで落としても、

厳しいコース状況が変わる訳でもありません。


「雷おこし」が水分を含んで崩れていくように、

2本目の雪面も「ザラザラ」と音とを立てて削られていきました。


ただでさえエッジングの厳しいコース上に、

削れて転がる「ビーズ」が散りばめられ、

滑走ラインから外れれば、ビーズの「吹きだまり」に突っ込みます。

2本目の状況は輪を掛けて厳しくなってしまったのです。


森井選手の攻撃的な滑りも、

鈴木選手の絶妙なスキーコントロールも、

夏目選手の確実性も、

谷口選手の豊富な経験も、

全てが全て「封印」されての戦いでした。


「敗因」は、全てが裏目に出た!こと。

そんな、本当に辛いレースだったんだろうなと、

σ(^^;は画面を見ながら、レースの終了を呆然と迎えました。


さて、男子の競技はこれで全て終了です。


期間中を通して、なんと言いますか、

「感動」とか、そんな簡単な言葉で、

このソチパラリンピックを表現することはとても出来ませんねぇ....


画面の前で座っていただけでしたが、

「一緒に戦えた」という充実感に満たされた、

素敵な時間を頂いた気がします。


本当に本当に、お疲れ様でした!(^^


さて、まだもうひとレースが残っています。

もしかしたら?あわよくば?なんて事も期待しながら手に汗握った女子GS。

次回はその模様をお送りします♪

「『4年間』の始まり」にて(^^

2014年3月22日土曜日

3日がかりの苦闘(後半):20140314SochiSC(SG)Men....

ソチパラリンピックの日程も、(このブログでは)残すところあと3日(^^

参加選手たちの疲れは、すでにピークを越えてたのではなかろうか?


でも、前日の鈴木猛史選手がもぎ取った金メダルに、

ジャパンチームの雰囲気は盛り上がっていたはずです(^^


この日は、ソチパラリンピックDay7。

足かけ3日のSuperCombi(スーパー複合:SC)、その2本目が行われました。


1本目はDay4、思い返せば、雨とガスと柔らかい雪面に悩まされた激闘でした。


そこを生き残った選手たちが、この日、栄冠を掛けて疾走しました!

さっそく、その模様を見ていきましょう(^^


映像は....YouTubeで公開されていません!なんてこった!!

お手元に録画されていれば、再生をして下さい(^^;

映像がお手元にない方には....「観戦記」の出番ですね♪

リザルトを元に「見てきたように」書いていきます!

それでは、どうぞ!!


....1本目を生き残ったのはわずか10名。

晴天に恵まれたこの日の2本目はどこかもの悲しい雰囲気があった。

相変わらず、雪面状況は良くない。


SCの2本目だと考えると、10.05秒というビハインドに気が滅入りそうになる。

夏目選手は何もかもを記憶の奥に追いやった。


これはSCではない。

単独開催のSuper-G(スーパー大回転:SG)なのだと思い込むことにした。

自身、SGとの相性は悪くない。モチベーションを高めるには効果的な方法だった。


それに、あのDidNotFinished(途中棄権:DNF)、実際に夢枕でうなされてもいた。

この悪夢を振り払わない限り、胸を張って帰途につけない。

この2本目は、自身の「精算」という意味も含んでいた。


森井大輝レプリカと言われることもある第1ゲートの入り方。

独特の重心移動が、的確に雪面を捉えた。


ふたつ、みっつ。

まるで音楽を奏でるようにリズムを刻む。

テンポが上がる。

それらに共振するサスペンションの振動は、ひとつの楽器のようでもあった。


IT(中間計時)。

すでに滑り終えた2選手を大きく突き放す。


大自然と自身、そしてマテリアルが奏でる「協奏曲」は、

絶妙な軽やかさを伴い、心地よく流れていく。

その終止線を迎えるまで、演奏者はオーディエンスを魅了した。


谷口彰選手。

引退を決めている彼にとっては、最後の高速系ランとなる。

慈しむように愛機をコースに滑り込ませた。


わずか1分半ほどの短い旅路だが、

これまでの、20年にもなるキャリアの全てを込めて走った。


様々な事があった。

様々な経験が出来た。

様々な出会いがあった。


視界がぼやける。

それは、目もくらむようなスピードのせいではなかった。


やはり、この男が来た。

DUECK Josh選手(CAN)。

チームの無線がトップタイムの更新を伝えてきた。

今期は必ずと言っていいほど、ジャパンチームに絡んで来た選手のひとりだ。


必ずこの2本目は「来る」と確信していた。

だが、森井大輝選手は動揺していない。

越えなければならない壁は彼ではない。

0.81秒という1本目のビハインドでもない。


自分自身。全てはそれに尽きる。

押し込んだスタートバーは、自分を「解放」するための箍でもあった。


溢れ出す激情に身を任せ、

バケットシートに体を預ける独特のスタイルで、

誰よりも速くコースを駆け抜ける。


だが、その姿に余裕は感じられなかった。

実力の全てを出し切れば栄冠に最も近い存在だとは自覚している。

しかしこれまで、まるで運命に翻弄されるかのようにハードラックに振り回されてきた。


勝利の女神を振り向かせるには、まだ煌めきが足りないのか。

森井選手は、自身、まだ未経験の「領域」に飛び込んでいく。


ギャップ。

うねり。


弾かれようと叩かれようと、「落下」方向は見失わない。

ゲートが行く手を阻んでもはじき飛ばす。


切り返し。

誰よりも早いエッジング。

他の選手が掘り進めたエッジングギャップはまだ先だ。

こちらはすでにターンを始めている。


ゲート。

ギャップ。

それぞれの位置が手に取るようにわかる。


ゲートを掠める最速ライン。

ライン上のギャップ。

ギャップが掘り進められた方向、自分のラインと交錯していた。


一瞬の「逆バンク」と「キッカー」。

スキーエッジは「射出」されるように、重心から離れていった....


ちょいと説明が必要でしょうか(^^;

森井選手がDNFとなったあの局面、

映像ではギャップに飛ばされてしまった結果というように見えますが、

よくよく見てみると、もう少し事情は複雑なように思えるのです。


あの局面までは....

①森井選手は最速のラインを走っていた
②あのターンインは、最高のタイミングと絶妙なキレで仕掛けた
③少々のギャップなどは、問題なくリカバリーをする技術を、森井選手は持っている

そして森井選手の滑りの特徴として、

④誰よりも早いターンインをしていた
⑤初期のターン弧は、他の選手のラインよりも内側に刻まれる

さらに、他選手のラインは、

⑥森井選手のラインと角度が違う
⑦ターンインのタイミングが遅いため、
  雪面が掘れるポイントは、森井選手の進行方向の先にある
⑧雪面が掘れる方向は、森井選手のラインに対してコース外側から内側となっていた

以上のことを整理すると、

⑨森井選手は、結果的にスキーの進行方向に逆らう角度の雪面ギャップに入ってしまった
⑩ターンに入っていた体の重心はゲート側に向いていた
⑪スキーは、ギャップの方向(森井選手に対してコース外側)に取られてしまった
⑫ギャップでスキーが宙に浮いてしまい、
  空中で、スキーはコース外側方向へ、体はゲート側方向へと流れていってしまう
⑬結果、「横倒し」になるように転倒してしまった

こんなところではないでしょうか....


だいたいの場合、インスペクションの時に、

「この辺は掘れそうだな」と予想することが出来るのですが、

「この辺だろうな」とは判っても、「ここにこの方向で」などとは絶対に判りません。


予想も出来ない、そしてコントロールを失うような局面にぶつかってしまった。

本当に、「運が悪い」としか思えません(^^;


森井選手自身が戦前、「パラリンピックには魔物が棲む」と言っていましたが、

残念ながら、その魔物は森井選手自身を襲ってしまったのかなと思ってしまいます。


まあ、森井選手本人の見立ては違うかも知れません。

あくまでも、σ(^^が「わかったように」書いているだけなので、そのあたりはご容赦を♪


さあ、残すところ、男女ともそれぞれあと1種目。

GiantSlalom(大回転:GS)レースのみとなりました。


次回は、まず男子から。

「本命と言われることの厳しさ」にて。

2014年3月20日木曜日

本命爆発:20140313SochiSLMen....

ソチパラリンピック代表選手団が無事に帰国したようですね(^^

本当にお疲れ様でした!!

まだしばらくは忙しい日々が続くと思いますが、お疲れの出ませんように♪
                            モウスデニクタクタダロウケドモ....(^^;

さて、σ(^^;は、まだまだ「ソチ」から離れられません。

「山本新之介のソチパラリンピックをまるでわかったような技術解説」は、続きますよ♪

「フラッシュバック」のような感じでお楽しみください(^^


今回は、ソチパラリンピックDay6、男子Slalom(回転:SL)を見ていきます!


まずは、何はともあれ、鈴木猛史選手の金メダル、本当におめでとうございました!!

下馬評通り、実力通り、やっぱり、当然、あっさり、金メダルを獲ったねとお考えのあなた!

そんな簡単なものではありませんでしたよ(^^

映像で見るより、はるかに困難な状況だったことをご説明しましょう。


1本目、鈴木選手のスタート順は全体の80番目。

VisualyImpaired(視覚障害:VI)クラスや、

Standing(立位)クラスが滑ったあとの、

Sitting(チェアスキー)クラスです。

とんでもないコースの荒れ方になっていたんですよ(多分^^;)。


一定の、ハイレベルなレーサーたちが滑ったあとならともかく、

いろんな障害で、いろんなレベルで、いろんなラインで雪面を掘り返したあと。

その深さ、30cmぐらいは優にあったかも知れません。


ターン前半からエッジを掛けて掘れて、

そのギャップに叩かれたリカバリーでゲート際の雪面は波打って、

ターン後半は落とされないように藻掻いた「クレーター」がばっちり。


始めから終わりまで、きれいな「半月状」の溝だったら、

どんなに深くてもある程度は対応出来ると思うんですよ。


でも実際には、ひとつのターンごとに、

スキークロスのミニチュアコースが出来てしまっているようなものでした(多分^^;)。



そんなターンを50回以上も続けるなんて、

「ふつー」のチェアスキーヤーに出来るはずがありませんわな(^^;


1本目、鈴木選手は1.61秒差の2位。

これは「守った」から出来てしまったビハインドでしょうか。

それとも、1本目ラップ(トップタイム)のSOKOLOVIC Dino選手(CRO)が、

イチバチのギャンブルを成功させたからなのか。


ふたりは続けてスタートしていますので、

コース状況が大きく変わっている訳でもありません。

ふたりのランを見比べてください。

鈴木選手



SOKOLOVIC 選手


IT(中間計時)までは0.1秒差と、ふたりともそんなに違いはありませんでした。

あの「激アレ」だった急斜面を「1-2」で降りてきた訳です。


注目すべきは、IT~フィニッシュまでの区間。

SOKOLOVIC選手はフィニッシュまで変わらず最速タイムを刻んできましたが、

鈴木選手は7位に後退しています。


この差はどこから来たのか?


YouTubeでの映像を「別ウィンドウ」でそれぞれ立ち上げて「並べて表示」して、

頑張ってほぼ同時に再生してみてください。

とても面白い事がわかります。


SOKOLOVIC選手はスキー板を下へ下へ落とし続け、攻めに攻めて加速度を増します。

一方、鈴木選手はやや守った滑りをしたのか、

スキーがほんの少しだけ横を向いたり、切り返しの際に「浮いたり」しています。

こういった違いが、フィニッシュでは大きな差になってしまったということでしょう。


その差、1.61秒。

σ(^^;はTV画面の前で、「これは厳しくなったなぁ....」と呟いてしまいました。


もうひとつ比較してわかったこと。

もし、同じLW12-2のσ(^^;が、彼らの滑りを再現しようとすれば、

どこか「遠い所」へ旅に出てしまっただろうねと♪


閑話休題。


さて、2本目です。

2本目は、ナイトレースでした♪

きらきらとキレイですねぇ(^^



結果からすれば、鈴木選手は堂々の金メダルでした。

が、ITまでとIT~フィニッシュまでの区間タイムを比較してみると、こんなデータが出ました。


鈴木選手のITまでは2番タイム、IT~フィニッシュまでは、なんと5番タイムだったのです。


区間最速タイムを見ますと、

ITまではNOLTE Thomas選手(GER)、

IT~フィニッシュまではRABL Roman選手(AUT)が、

それぞれで最速タイムを叩き出しています。


しかし、NOLTE選手は2本目IT後にDisqualified(旗門不通過:DSQ)、

RABL選手は2本目ITまでが6番タイムと、致命傷を負ってしまいました。


銀メダルをゲットしたBONADIMANN Philipp選手(AUT)にいたっては、

2本目の区間タイムはそれぞれ8番手、6番手と苦労したあげくの結果です。


ちなみにこの2本目、

我らが森井大輝選手はIT~フィニッシュまでを2番タイムで、

狩野亮選手はITまでを3番タイムで滑っておいででした(^^


で、1本目ラップのSOKOLOVIC選手は、

ご存じの通り4旗門目でDidNotFinished(途中棄権:DNF)だった訳ですが、

1本目同様のギャンブルをもう一度成功させていたらと思うと、冷や汗が出ます(^^;


こうやって区間タイムから分析してみると、

もっとも安定していたのは鈴木選手だったということでしょうか。

しかし、それは薄氷を踏みつつ、我慢に我慢を重ねた末に手にした栄冠だった訳です。


ね?

画面から見た以上に厳しいレースだったでしょ?(^^


あらためて、申し上げます。

鈴木選手、本当におめでとうございました!


厳しいといえば、SuperCombi(スーパー複合:SC)もそんなレースでしたね。

次回は「3日がかりの苦闘(後半)」をお送りします♪

2014年3月18日火曜日

3日がかりの苦闘(前編):20140311SochiSG(SL)Men....

(お詫び:前回の予告でお知らせした「本命爆発」は、
  ご案内の順番を間違えて書いておりました。謹んでお詫びいたします)


宴、終わっちゃいましたなぁ....

「ソチロス」なんて言葉が適当かどうかわかりませんが、

入れ込んでいた分、喪失感も大きいかも知れません。


でも、大丈夫!

「山本新之介のソチパラリンピックをまるでわかったような技術解説」

は、まだまだ続きます!

今少しの余韻を、どうぞお楽しみください(^^


....なんて、偉そうなことを書きましたが、ただただ筆が遅いだけなんですよね。

それに、σ(^^;ごときの技術解説など、どうか真にお受けにならぬようお願いします。


さて、朝から雨とガスがソチローザクートルアルペンセンターを襲ったこの日、

「なんで一足先に春が来る場所でオリパラを開催するんだろう???」と、

どんな招致活動がなされたのかと勘ぐりたくなりました(^^;


ソチパラリンピックDay4。

ジャパンSittingチームの表彰台独占、

その期待が大いになされたSuperCombi(スーパー複合:SC)レースが開催予定でした。

しかし、そうそう穏やかなレースは約束されませんでした(^^;


スタートはDelay

あげくに、1本目のSuper-G(スーパー大回転:SG)は14日へ延期され、

本来なら2本目であるSlalom(回転:SL)のみをこの日に行い、

それを1本目の成績にするという変則的な開催となりました。


それに影響されて他の日程まで変更になったりと、

自然相手の戦いには予定なんてあったものではないなとつくづく感じた1日の始まりでした。


さて、変則的なSCレースとなった訳ですが、

選手たちの戦い方も大きく変わったはずです。


本来のSCの戦い方は、高速系種目を得意とする選手たちは、

1本目で「逃げ切る」タイムを叩き出そうとしますし、

SLが得意であれば、2本目で「捕まえる」タイムで逆転を狙います。

この順番が変わるということは、スタート前の心構えを変えなければならないと思うんです。


SGでひっくり返されないように、

圧倒的なランをしなければならないスラローマーたち。


歯を食いしばりながらSLをやり過ごし、

「スピードの向こう側」へ勝負の領域を持ち込みたいカッ飛び野郎たち。


立場を逆転させられたレーサーたち、

この1本目をどのように戦ったのか見ていきましょう!

YouTubeで配信されている映像は次のとおりです。

合わせてご覧下さい♪

ついでに、リザルトはこちらです。



....雨に翻弄される雪面。視界を遮るガス。


すでに女子の各クラス、男子VisuallyImpaired(視覚障害:VI)クラス、

そして男子Standing(立位)クラスが滑走を終えていた。

実に60名以上のレーサーたちが、ただでさえ軟弱な雪面を掻き回していた。


目の前に広がる、絶望的な戦場。

しかし、戦士たちは愛機を駆り、果敢に離陸していく。


DidNotFinished(途中棄権:DNF)、Disqualified(旗門不通過:DSQ)。

次々とたたき落とされる戦闘機たち。

その悲壮感は時間を追うごとに高まっていく。


Sitting(チェアスキー)クラス8番スタートの森井大輝選手まで、

「仕事」を終え帰還出来たのは2名に過ぎない。

表彰台独占。

その「夢」ために、チーム1番機の自分が消える訳にはいかない。


荒天の中のフライト。

戦闘服に染み込んだ雨が体を冷やしていく。

それでも、エースパイロットは悲壮感を闘志に変えていった。


それまでに培った全ての技術を吐き出し、

1ターンごとに変わるコース状況に対応する。

ギャップ、バンク、ウェーブ。

そして、視界を遮る厚いガス。


ありとあらゆる局面でも、基本とする要素は変わらない。

「重力に逆らわない」

複雑な雪面状況に対して、持ち合わせている「引き出し」の全てを開けた。


IT(中間計時)では、圧倒的なタイムを叩き出す。

リーダーズボードに君臨するNOLTE Thomas選手(GER)を、

その時点で1.54秒も突き放す。


しかし、視界が晴れ、フィニッシュエリアが目に飛び込んできた最終局面。

深く深く抉られたギャップにはまってしまい、危うく「撃墜」されかかる。


この日の運命を司っていた神に、

チェックメイトまで追い詰められることはなかったが、失ったタイムは大きかった。

リーダーズボード。そのタイムを確認し、森井選手は大きく首を振る。


続くRABL Roman選手(AUT)、さらにリーダーズボードを書き換える。


悪夢は、その後のほぼ全ての選手に対して平等に襲いかかった。

「Kano,OUT!」


ざわめきが一層大きくなった雰囲気の中、

チームキャプテンの森井大輝選手は唇を噛む。

奇しくも自らも落とされたギャップの餌食になった瞬間を目撃してしまったのだ。


上げたはずの「情報」。

間に合わなかったのか。


ITまではRABL選手を上回るタイムを刻んでいただけに、その落胆は大きい。

狩野選手は、コース外に呆然と佇んだ。


鈴木選手は、悠然とスタートを切った。


称号で戦う訳ではないのは百も承知だが、

「絶対王者」がどのように立ち振る舞うのか、

会場の全ての興味はその一点に注がれていた。


勝負どころは第10ゲート以降。

刻々と重ねられる「情報」を元に、彼はそう決めていた。

それまでは、自身が持つ抜群のボディバランスを武器に、

荒れ狂う急斜面をやり過ごす算段だった。


だが、すでに鈴木選手の思惑を越えたところ、言うなれば、

鈴木選手に加護を与えてきた女神と、選手たちに苦難を与えている邪神との戦いへと、

レースの様相は、人間の無力さを恨めしく思う局面にまで変化していた。


最速ラインへ導く女神。

それを妨げようとする邪神。


「攻め」へとリズムを変えていこうとする矢先の第8ゲート。

邪神の指先が彼のスキートップを数cmだけ狂わせてしまう。

女神は力尽きた。


ポールに乗り上げ、「不通過」となってしまった彼は、

そのままコース外でレースを終える。


スタートゲートに嫌われた夏目堅司選手。

第1ゲートからリズムを取ることが出来なかった。

次々と襲いかかるゲートに打ちのめされていく。


しかし、ギリギリのところで愛機をコントロールし、

戦場の藻屑となることは回避していた。

無事に帰ってこい。

森井選手は拳を握りしめていることに気がつく。


フィニッシュエリアという「母艦」の暖かさを、

夏目選手はしみじみと噛みしめた。


散っていった戦士たちの合間を縫うように、谷口彰選手が生還した。

そのタイムはかろうじて夏目選手の上。

しかし、全ての得手が封印されたランを終えた彼の表情に明るさはない。


戦いが終わり、嵐のような邪神が去ったその跡。

生還した戦士たちは眺め、いくつものため息をついたのだった....


レースの映像を見ていて、これでもか!というぐらいにDNFが続きました(^^;

「ルール上」はアルペンレースなんでしょうけども、

何か「別のスポーツ」に見えたのはσ(^^;だけでしょうか?


今回は、そのあまりにも悲壮感漂うレース結果だっただけに、

思わず「見てきたように」書いてしまいました。

この状況で「技術解説」など書こうものなら、

とんでもないボリュームになりそうでしたし....(^^;


リザルトから読み取ってみると、完走率38.5%!

2本目に「勝負を仕掛けられる」タイムで降りてこられた選手はわずか5名!!

その割合、実に19.2%!!!(^^;


ジャパンSittingチームの栄冠を掛けた戦いは、

森井選手ひとりが背負うことになりました。


2本目のSGは3日後、14日の開催です。

その模様は、また後日♪

次回、次回こそは「本命爆発」(^^;

2014年3月16日日曜日

十把一絡げで失礼:20140310&12SochiSG&SLWomen....

筆の遅さに我ながら辟易としている山本新之介です(^^;

あれよあれよの間に、ソチパラリンピックも最終日を迎えようとしています。

が、このブログではまだDay3....

まあ、ぼちぼちと書いていきます♪


ワールドカップや世界選手権では、男女ともに同じ日に競技が行われますが、

パラリンピックでは、

DownHill(滑降:DH)とSuperCombi(スーパー複合:SC)のみ同じ日に、

他の競技は、男女別々に行われます。


男子では、ジャパンSittingチームの華やかな活躍が繰り広げられましたが、

女子は「まだまだこれから」という選手がエントリーしています。

彼女たちの、これからの成長を見守るというのが、女子競技の見どころだと思っています。


紹介しましょう!

田中佳子選手と村岡桃佳選手です!(^^


田中選手は技術系種目のみのエントリー、

村岡桃佳選手は、Super-G(スーパー大回転:SG)と技術系種目にエントリーしています。

ソチ入り後、男子の活躍を一番近くで目にした彼女たち。

待ちに待った自らのスタートをどのように迎えたでしょうか?


では、「山本新之介のソチパラリンピックのまるでわかったような技術解説」、

本日はDay3の女子SGレースと、Day5の女子Slalom(回転:SL)についてです!


女子SGは村岡桃佳選手が孤軍奮闘!

しかし、チームスタッフの暖かいサポートで気が和んだのでしょうか。

スタート直前は、笑みを浮かべるほどリラックスしていました。

本当に、チームや関係者のみなさんから愛されているのがよくわかります。


スカパー!の映像をご覧になった方は、

野島弘さんの解説をお聞きになったと思いますが、

野島さんはまるで「お父さん」のように応援していましたね。


解説というより、運動会を見に行ったお父さん(^^

それほどまでに、彼女のこれからを応援されている訳です。

「愛情」を一杯注がれて成長していく彼女の今後に乞うご期待です♪


これで終わっては「わかったような技術解説」にはなりません。

彼女の滑りを厚かましくも分析してみようかと。

ヘタなことを書くと、ジャパンチームのみんなから全力バッシングを受けそうですが(^^;


「見てきたような観戦記」でも何回か書きましたが、まずは村岡選手の「武器」から。

誰もが求めても得られない、決定的な優位性が彼女にはあります。


映像をご覧になって良くお解りでしょうけども、彼女、とても小さな体格をしています。

当然、そのシートも大変小さな作りです。


ということはですよ?

ターンの際、普通ではあり得ないぐらいにチェアスキーをバンクさせることが出来る。

つまり、誰も表現出来ないような小さなターン弧でゲートをくぐることが出来るのです。


ターン弧が小さいということは、ターンを早く終わらせられる。

ターンを早く終わらせられれば、その分だけ早く加速を始められる。

早く加速し始めれば....お解りですね(^^

これだけでも、とんでもない「武器」です。


さらにさらに。

彼女は体格の割に、腕が長い。


低い重心位置と長い腕という組み合わせは、

ターン中に腕でバランスを取るスキー競技において、その優位性が高まります。

「やじろべえ」を例えに出すのは、重心と支点の位置関係から不適切ですが、

腕が長いということは、安定感増し増しになることがよくわかるでしょう。

これがふたつ目の「武器」。


みっつ目の武器は、その「軽さ」そのもの。

体重が軽いということは、ターン中にかかる遠心力も小さくなります。

当然、雪面に対する荷重も少ない。


ということは、特に、技術系種目において、

減速要素となるターン局面での雪面抵抗が少なくなるので、

ハイスピードターンが可能になります。


また、滑走面の摩擦係数も小さくなりますので、

体重の重い選手と比べると、加速局面では大変有利になります。


さらにさらに、遠心力が小さいということは、

ミスリカバリーにかかる時間も少なくて済むというオマケまで付いてきます(^^


ただ、「軽さ」は諸刃の剣です。

ターン局面での優位性の一方、

「落下」の局面では大変不利に働きます。


重い鉄球とパチンコ玉を同時に斜面に転がすと、

重い鉄球の方が速いスピードで転がっていきます。

「慣性の法則」によって、大きなスピードの差が付いてしまうのです。


これはスキーでは致命的(^^;

特に高速系レースでは、

「軽量級」の選手は圧倒的に不利だといわれますが、

こういったことが理由な訳です。


体格の小ささがとても有利になる反面、大きなデメリットも抱える村岡選手。

彼女はこれからどのようなスキーキャリアを歩んで成長していくのか、

長く、暖かい目で応援してあげてください(^^


ジャパン女子はもうひとり。

田中選手は、こつこつと努力してきた選手です。

デビュー当初は、大日方邦子さん、青木辰子選手の「双璧」に割って入って、

揉まれて強くなっていくだろうと期待の大きかった選手です。


近年は、少し思うような成績を上げられていませんが、彼女も「努力の人」です。

モチベーションを切らさない限り、まだまだ「これから」と言っていいでしょう。


キャリアが長い分、斜面への対応力はしっかり持っていると思います。

ただ、それが「守り」に向いてしまう事が多々あるような気もします(^^;

少しずつ、「守り」から「攻め」に気持ちを移し替え、

もの持ち前の対応力を発揮させられればなぁと思います。


ふたりとも「平昌」を視野に入れているはずで、

次の「4年間」は目を離したくはありませんね(^^


さて、SG&SLでの、彼女たちの成績だけで言えば振るいませんでしたが、

積極的に技術的なことはどうだとか、まだまだ評価する時期ではありません。

彼女たちの本番は「平昌」なのですから(^^


口性ない人はきっと言うでしょう。

「そんなレベルの選手を出すな!」と。


とんでもない!!

国内ではアルペン女子レーサーはまだまだ育っていません。

その土壌を育むためには、こういった選手たちを大切に育てて、

将来の日本障害者アルペンスキー界の発展に繋げなければならないのです。


特に村岡選手については、

将来有望なジュニア選手を育てるため、

日本障害者スキー連盟が必要と判断し、

日本パラリンピック委員会が派遣した。

これも立派なジュニアアスリートの育成方法です。


税金?

必要な育成にはジャブジャブ使いましょうよ?

この経験を元にして、将来、彼女たちはざくざくとメダルを取ってきますよ(^^


と、今回はここまで。

次回は、「本命爆発」です♪